あるいはiで一杯の文

前日か当日に観たり・聴いたり・読んだりしたものについて書いていこうと思います。この文を読んだ方が、それらに触れたくなってもらえたら幸いです。

世界を革命する愛を

 この世界において自分ができることってなんだろう。祖国のために武器を持つこと?他人の尊厳を貶めること?少数派の人の声を圧殺すること?そんなことよりも身近にできることがある。イエスもずっと言い続けてる、あのことが。ナショナリズムが台頭しつつある世の中で、ヘイトに中指を立て、ストレートに愛を謳う映画、「ジョジョ・ラビット」。

あらすじ ジョジョ愛国心たっぷりの10歳の少年。弱いし、臆病で、靴紐も結べない彼だけど、祖国を思う気持ちとユダヤ人への敵対心は町一番!強くて気さくなママと親友のヨーキー、そして彼にしか見えないちょび髭の総統、アドルフに囲まれながら、祖国の為に奮闘中。
 そんな彼の家に、憎きユダヤ人の女の子が潜んでいた!思わぬ伏兵にびびりまくるジョジョだが、「彼女からユダヤ人の情報を聞き出せば、本物の総統に褒められるかも!」と思い立ち、彼女との交信を試みる。しかし彼女、想像していたユダヤ人とは違うようで…?

 映画を観る前は、予告にもあった訓練シーンが全体に散りばめられているのかと思ってんですけど、そのシーンは最初の10分だけでそれ以降のジョジョは、ほとんど状況に振り回される側の存在になってます。彼が国の為に行動しても、周囲の大人達は微笑むだけで、世界に対して何の変化も与えることができません。彼の行動で事件が起こるわけでもないので、普通だったら面白みの少ないシーンに見えますが、そこは彼のイマジナリーフレンド、監督自身が演じる総統との掛け合いで、ポップでコミカルなものになっています。
 それとは対照的に、彼の周りで起こる悲惨な出来事は特に派手な演出はしていません。意気揚々と戦地に向かった少年兵達の傷だらけの帰還や市街での銃撃戦、そしてあまりにも突然で悲痛な死…。ジョジョを中心とした明るいシーンの中で、それらを淡々と流すことにより、戦争の愚かさと世界の残酷さを際立たせてる演出には、息を呑まされました(一緒に見ていた観客の中には思わず「え…」と零す方もいました)。

 スカーレット・ヨハンソン演じるお母さんもよかったですが、個人的にはサム・ロックウェル扮するキャプテン・Kが一番好みでした。軍人というナチ色が強い役柄ながらも、子供を見守る優しい大人。ジョジョの家にゲシュタポが捜査に入った時やロシアに鎮圧された後の町中でも、彼を庇い、全体主義としては誤っているジョジョの行動に目をつぶるキャラクターは非常に好感が持てました(ラストの演技も素晴らしい)。

 反戦と親愛がテーマであるのは勿論、”ペンギン・ハイウェイ”のような「世界に触れる過程で成長する子供」を描いてるようにも見えるこの映画。“縞模様のパジャマの少年”や”太陽の帝国”は、子供視点で描く戦争映画という点では同じですが、これらには成長の要素はほとんどなく、戦争の悲惨さが主軸となっています(”太陽の帝国“は成長というよりは悟り)。しかし、ジョジョは戦争を体験し、死に触れ、恋を知っていく中で、二時間前の彼から成長していく。そして、最後の彼の行動は小さいながらも確かに世界に変化をもたらします。
 ヘイトを茶化し、反戦を訴え、愛に踊る映画。もっと笑えるギャグや最初10分のテンポが終わりまで続いていれば、オールタイム・ベストに入る一本だったかもしれません。

※テンポでいえば、”パラサイトー半地下の家族ー“が凄まじかったので、こちらも超お勧めです。