あるいはiで一杯の文

前日か当日に観たり・聴いたり・読んだりしたものについて書いていこうと思います。この文を読んだ方が、それらに触れたくなってもらえたら幸いです。

笑おう、気が滅入るほどの現実を!

 また年が超えようとしている、沢山の問題が根本的解決をなされないまま。コロナで浮き彫りになった医療崩壊、広がり続けるポピュリズム、次々と醜態を見せる政治家及びその汚職事件…。世界に目を向けても、温暖化や経済格差、国家間の対立など将来への不安を感じずにはいられないニュースが多数見聞きされる。といっても、世間の多くは有名人のゴシップニュースを追っかけ、最新スマホ等の流行品のチェック、そして自身のSNSで、如何にいいねを貰うかを模索することに必死だ。
 このままでいいのだろうか。悪いニュースは見て見ぬふり、もしくは自分の都合の良いように解釈して放っておいて、構わないのだろうか。そんな世界を高らかに嘲笑しつつ、今そこにある危機に目を向ける勇気を与えてくれる映画、「Don't look up」。個人的今年ベストの一本です。

 「仕事とブログの両立ができている人、及びライター業の人ってホント凄いなー」ということを痛感する一年でした。まぁヒッチコック風に言えば「たかがブログじゃないか」なので、そこまで身構えず、自分が楽しむことを忘れずに、今後も更新できればと思います。(来年は二か月に一回を目標に…)
 ということで、久々の更新&大晦日にご紹介するのは、ネットフリックスで制作された「Don't look up」です。昨日で都内の劇場上映が終了だったので、シネ・リーブル池袋へ駆けつけましたが、観れて良かった…。やっぱりコメディ映画を他人と一緒に笑って観るのは、気持ちがいいものですね。話が進むにつれて、周りの笑顔は引き攣っていきましたが。

 ミシガン州立大学の大学院生ケイト(ジェニファー・ローレンス)はある時、巨大な彗星を発見する。教授であるミンディ博士(レオナルド・ディカプリオ)と研究室メンバーと共に発見を祝っていたが、博士が彗星の軌道を計算すると、恐ろしいことが発覚した。直径5~10kmのこの彗星が凡そ半年後に、地球に衝突するというのだ。すぐさまNASAに連絡し、惑星防衛調整局(実在します)の長官、オグルソープ(ロブ・モーガン)と共にアメリカ大統領のオーリアン(メリル・ストリープ)に危険を訴えるが、不適切人事問題への対応と中間選挙のことで頭が一杯の大統領は真面目に取り合ってくれなかった。隕石衝突は極秘情報として、公表を禁止されたミンディ博士達は、世論を味方につけるため、ニュース番組で事実の公表を試みる。しかし、事態はますます悪化して…。

 今やすっかりイケメンという称号を捨て去ったディカプリオ。「キャッチー・ミー・イフ・ユーキャン」や「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」で演じた❝弱々しく、情けない❞というタイプの役が一番ハマってるんじゃないかと思っていたのですが、今回の天文学の教授役で、確信しました。理系大学の講義室真ん前に座る学生から借りてきたような服装で、要領を得ない喋り方をするミンディ博士は、理系大学出身の自分が懐かしさを覚えるようなリアリティがありました。
 その特徴的キャラとある種の愛嬌が好感を抱かれ、TVのスターに仕立て上げられていく博士と対象的に、問題をストレートに必死に告発するケイトは心理的異常者と見なされ、ネットミームにされてしまう。この描写がマスメディアとそれを受けるネット民の悪いところを端的に表していて、見事でした。パニックムービーには付き物の会議シーンも、見せ方は違いますが「シン・ゴジラ」のように、退屈させないスピーディでテンポある編集をしています。株取引を題材にした社会派映画でも、優れたエンターテイメントとして提供してくれるアダム・マッケイの手腕、今回も冴えています。HBOで制作を務める「パラサイト 半地下の家族」のアメリカ版リメイクも非常に楽しみです。

 様々な世の悪いところを風刺するこの映画ですが、糾弾する問題は一つ、❝知ろうとしないこと❞です。ニュース出演の甲斐あって、「核爆弾打ち上げによる彗星軌道を逸らす」作戦が実施されようとしますが、彗星に豊富なレアメタルが含まれていることがわかると、科学的査読がなされていない「彗星の破壊及びレアメタルの採取」という企業主導の作戦に取って代わられてしまいます。しかし、世の人々はそんなことなど露知らず、普段通りの日常を送っています。ケイトが幾ら危険を叫ぼうと、目先の利益に捕らわれた輩と陰謀論者によって、社会的立場を奪われてしまいます。ミンディ博士もスターに祭り上げられたことによる快楽によって、企業と政府の作戦に目を閉じてしまう…その科学的正当性が無いことを知りながら。
 情報化社会と謳われて数十年、今の世の中には真偽入り混じった情報が洪水のように溢れています。社会学の学位もない一個人が言うのもおこがましいですが、やはり大事なのは「一つの情報を多角的に見て、感情に流されず吟味する」ことが大切なのだと思います。そして、情報を多角的にみるためには、まず❝知ろうとする❞ことから始めなければなりません。「俺たちニュースキャスター」というまさにニュースを題材にした映画から始まり、「マネーショート 華麗なる大逆転」、「バイス」という実在の題材から❝知ろうとしない❞ことへの警鐘を鳴らしてきたアダム・マッケイの叫びをディカプリオが代弁するシーンには、心を打たれました。

 この映画のラストは是非皆さんの目でご覧になってください。何かと暗いニュースが多い昨今ですが、暗い気分は笑い飛ばし、2022年は上を向いて迎えていただければ、幸いです。では、よいお年を。